街道の最も街道らしいところ.鎌倉道から東海道までネタに事欠かない.そのうえ箱根や小田原地域を除いた「相武」地域を充分に描き出すという難題に挑戦し,成功している.いざ考えてみると今日の神奈川県域の中核部というもののきちんとした印象はない.せいぜい相模原の軍都化くらいだろう.神奈川県に住んでいる人におすすめ.
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藤田覚, 大岡聡編『江戸―街道の起点』
本巻は江戸にひたすら焦点をあてる.狭い地域なのだがネタはつきない.意外に古代,中世の記述はよくできていて感心する.概説書でこれほど情報が豊富なものはなかなかない.
広瀬崇子, 小田尚也, 山根聡編『パキスタンを知るための60章』
いままでパキ,パキと馬鹿にしていたが思いの外に奥が深い.やはりバローチスターンとチトラル周辺はいってみたいなぁ.良書.
西垣晴次『群馬県の歴史』
たいてい近世の社会経済史と近代の民権運動ネタにアキがくるのが地方史のガンだが,中世の記述が多かったせいでそれがない.
ルーホッラー・ムーサヴィー・ホメイニー(富田健次編訳)『イスラーム統治論・大ジハード論』
新プロ(イスラーム地域研究)の成果。ついにペルシア語からの翻訳版が出た。抽象的な宗教用語や法学用語にいちいちペルシア語のルビ(もちろんカタカナだが)がふってあって、非常に有益。やはり日本語で読むと理解の度合いが違う。
大塚英志『物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン』
理屈はわかるが、ほんとうに書けるようになるのだろうか。プロット体操。
今野緒雪『夢の宮~竜の見た夢』
十二国記を読み終わったので三田図書館でとりあえずながく続くシリーズを借りてみる。
が、しかし。世界観の書き込みが圧倒的に足りない……やはり、これは少女向け恋愛小説に括られる小説にすぎないように思う。中華風の世界を舞台とし、その一国の後宮をめぐる物語なのだが、国や王、官の存在感が希薄なのだ。国をめぐる悲恋も登場し、亡国の恨みをはらす、ということが主要なモチーフの一つとなるが、亡国の原因やそれを巡る民のあり方というのがさっぱりわからない。もっとも、ここまでながくシリーズが続いているので、徐々に世界観も深まっていくのかも知れないが。
小野不由美『華胥の幽夢』
『十二国紀』6つめ.いよいよ既刊の十二国記をすべて読み終わってしまった。また新しいお話を求めてさまよわなければならない。歴史でもなんでもよい。お話を読んでいるときのほうが明らかに私の思考は活性化する。たとえそれが白昼夢や妄想の類に過ぎないにしても、だ。
小野不由美『黄昏の岸 暁の天』
小野不由美『魔性の子』
モダンホラー的なところがあって、私にとってはかなりきつい内容。これだけで終わっているなら、たぶん読まない。『十二国記』で、この事件がどうなるのかがわかっているので、耐えられた。
小野不由美『風の万里 黎明の空』(上下巻)
小野不由美『東の海神 西の滄海』
『十二国紀』3つめ.前巻の陽子の物語から離れて、その前後の物語となる。こういう物語の構成だったのか……。しかし陽子編もまだまだあってしかるべき、と思ったら、この次がそうだった。
小野不由美『月の影 影の海』(上下巻)
細井計『南部と南部道中』
第I部「南部を歩く」が非常に詳しく有益。しかし第II部、第III部の細井先生執筆部は山川『岩手県の歴史』とほとんど一字一句同じで、いただけ ない。たしかに岩手県の中心は盛岡領であって、その叙述が県の概説と重なってしまうのはいたしかたないかもしれないが……。それだけにこのシリーズは、二 つ以上の県にまたがる領域や、ある県の「辺境」にあたる部分が面白い。
ところで以前岩手県立博物館を訪れたときにも思ったが、及川古志郎、野村胡堂、金田一京助、田子一民が盛岡中学の同級で文学志向をもっていて、その すぐ下には石川啄木がいるというのは実に凝縮されていておもしろい。ちなみに私たち東洋史を学ぶものの学祖ともいえる那珂通世もやはり南部の出身で(とい うより前巻『下北・渡島と津軽海峡』で詳しく語られている那珂梧楼の養子)である。
浪川健治編『下北・渡島と津軽海峡』
良書。特に下北に詳しい。中央から見下ろす地方史だけでなく、北からの日本史の立場の克服をも目指す意欲作。ただし上北については特に近世以前では『青森県の歴史』のほうが詳しいかも知れない。
奥村晴彦『[改訂第3版]LaTeX2e美文書作成入門』
秀逸。何カ所か誤植もあるが、dvipdfmxやotfパッケージなどの解説が実に詳しくなっていて、pdfとの連携がいっそう容易になり、かつフォント 廻りの知識も得られる。多言語処理についても付録一章がついている。今年以降のスタンダードはこれでしょ。もはやAnother Manualからインストールするのは古いかと。
細井計ほか『岩手県の歴史』
『青森県の歴史』との扱いの違いがおもしろい。根城南部氏とか。
長谷川成一ほか『青森県の歴史』
非常にバランスがよい。やはり北奥の真ん中で近世にいたっても南部・津軽双方の領域をもっていたため、バランスが重視されたためだろう。ただし近代はいただけない。
永井秀夫編『近代日本と北海道――「開拓」をめぐる虚像と実像』
論集である。
中村英重「岐阜県と北海道移住」は、北海道移民の移出元について市町村レヴェルまで遡って分析した研究。県下一円平均的に移民が発生するわけではなく、移出元は集中する傾向がある。移住史が移出先のみに着目している段階から移出元の事情まで詳細に分析する段階に入ったことを示す。もとより北海道移民は世界史的にも非常に規模の大きい移民であり、研究の意義も多大である。
ほかに注目論文としてはキリスト者坂本直寛の思想を追い直した金田隆一「北海道における坂本直寛の思想と行動」と一般に忘れ去られがちな近代に導入されたロシア民具の一つである橇の変容を論じる関秀志「外来民具の導入とその改良・普及について――ロシア型橇を中心に――」などがある。
榎本守恵『侍たちの北海道開拓』
伊達家中の北海道移住を中心に扱う.出発以前の議論,中央政府との関わりなど全体像をつかみ取るのに有用.あるいは宮城地方史としてもよいかもしれない.