古い概説の楽しみ

ここのところ、前嶋信次や嶋田襄平といった人びとの書いた一時代前の概説書を読みあさっている。イスラーム世界の研究者はここ10年ほどで激増した、という印象がある。だから、古いものは本当に古くなってしまっていると思って、ちょっと敬遠していた部分があった。ところが、読んでみるとこれが意外な発見が多いし、基本的な枠組みはいまの概説書とも変わらない。そして、なにより、文の運び、語の選び方がすばらしい。もちろん、いまの概説書もテーマの選定、物語の運びには、感嘆を禁じられないものが数多い。羽田正さんの平らかでしかし余韻ののこる語り口、山内昌之さんの該博な語彙などいくらでも数え上げられるだろう。しかし、なにかしら、香りが異なる。もしかしたら、前嶋さんらは中国史料にも親しまれた世代だからかとも思う。しかし、言葉にも世代があるというのなら、あの人たちの世代といまの世代とは、違うような気もするのだ。前嶋さんの流麗な、嶋田さんの澄明な、イスラーム世界の『長安の春』。あのような文章が読みたい。

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