糠平の雪

3年ぶりのスキーである。高校の終わりから大学の始めにかけて、年4回から5回くらいはスキーに行っていた。今思うとなんであれほど楽しかったのかという気もする。久しぶりに誘われたし、噂に聞く北海道の雪でのスキーということで、ブランクを気にしつつ赴いたというわけである。

行き先は糠平(ぬかびら)温泉スキー場。帯広の北方、上士幌の奥に位置する。さらに進んで十勝三股から三国峠を越えるとすぐに上川管内層雲峡に出るというから、十勝国の北端、大雪山系の南端にあたる。あのあたりは火山帯にあたるから当然温泉も出る。案内によるとゴンドラ一基、高速リフト二基、ロマンスリフト一基という中規模のスキー場である。大学での同期友人たちとの旅行なので、休日をはさむかたちになっており、混雑が気になる。本州のスキー場ならそこそこ混んでいるだろうと、だいたい想像がつくものの、北海道での状況はさっぱりわからない。

北へ

朝は五時起き。羽田に6時50分集合である。正直眠い。これだけ早ければ、座っていける。三田で一回の乗換で羽田までいけるのは便利である。しかしいざ、三田で浅草線に乗り換えてみると意外に混雑していた。そして羽田空港は大混雑。土曜日の朝はかくも混雑するものかと思う。手荷物検査だけで10分近くは並んだ。こんな状況は初めてである。記憶しておいてよいことだろう。

混雑にうんざりしつつ沖留めのJD131便釧路ゆきに乗り込む。26Fにアサインされた。A300-600Rでは翼の上の中央列である。外も見えないので、何もやることはない。ぺらぺらしゃべっているうちにタキシングも終わり、たぶんR/W 16R/34Lから、あっというまにテイクオフ。さらにしゃべっているうちにランディング。なんの感慨もないフライトであった。

糠平への道

案内された釧路空港の地上外気温は零下5度。空港ターミナルから出てもそれほど寒いとは感じなかった。昨年同時期に旅した時の方がよっぽど寒かった記憶がある。雪も少なめ。もともと釧路は雪が少ないが、だいぶ少なかったのではないか。今年の道東は温暖だが、雪は多めと聞いていたので意外に感じる。

釧路空港から糠平温泉まではバスで向かう。150km超の距離があるので3時間ほどはかかる。空港の台地を南へ向かい、釧白工業団地の東端に近い場所でいちど海沿いに出て、白糠まで海沿いを走る。白糠から白糠国道で内陸に入り、釧路二股(白糠線足寄までの延伸を願って、釧路二股にある駅は、その名を北進と名づけられた)のあたりで道なりに左折、釧勝峠を越えて本別で右折。足寄まで陸別国道を北上し、再び左折して足寄国道で山を越え、ようやく上士幌に入る。上士幌から糠平国道を沢筋に糠平湖まで遡り、湖がきれるとそこが糠平温泉である。ここまで実はくだらないおしゃべりをしていたわけだが、ちらちらと車窓を覗く限りでは雪に埋もれている感じはない。海沿いでは地面が露出している場所もちらちらと見かけた。道路も完全に除雪が行き届いていた。

糠平はずいぶんと山奥であるが、以前には士幌線という路線が帯広から音更、士幌、上士幌、糠平を経て、十勝三股まで通じていた。山を削り、川に橋をかけ、かなりがんばって通した路線であったわけだが、ローカル線の常として大赤字をはじき出し、かなり早い昭和53年には糠平より北、十勝三股までがバス代行輸送化され、昭和62年にあえなく全線廃止となっている。

特筆すべきは、士幌線の遺構がきわめて多く残っているということである。一般に廃線後の鉄道遺構は、国鉄清算事業団に現物譲渡されており、先般の事業団の解散に伴って廃線跡も急速に整地され、次々に姿を消している。その中で士幌線は大規模な鉄道橋梁がきわめて多く残されている。北海道の鉄道橋梁遺構では根北線越川橋梁が非常に有名であるが、士幌線北部も昭和初期に鉄道省の持つコンクリートアーチ橋の技術が惜しみなく注がれた路線として有名で、随所にアーチ橋の優美な姿が残されているのである。バスの車窓からもいくつか視認することができた。糠平湖ダムの貯水量が少なくなると、湖底に沈んでいる士幌旧線の鉄橋も姿を現す(ひがし大雪アーチ橋友の会参照)。これらのアーチを観光資源として生かそうという試みもあるようで、糠平には士幌鉄道博物館がある。

もっとも糠平の街自体は寂れてしまっている。宿数軒にみやげ物屋が数軒。雑貨屋が一軒。ほかに公的機関がいくつかあるだけ。物の現地調達はよほどのことがない限りしないほうが良い。必要な物は上士幌まで出て買うのが吉であろう。

糠平温泉スキー場

到着後、さっそく着替えてスキー場に向かう。

好天時にゲレンデより糠平湖をのぞむ
好天時にゲレンデより糠平湖をのぞむ

糠平温泉スキー場は、想像以上に空いていた。スキーの人気はひたすら下降曲線をたどっており、内地でもだいぶ空いているようだが、休日をはさんでの旅行であったにもかかわらず、私の記憶では一番空いている。リフト待ちでストレスを感じることはほとんどなかった。リフト券が安いのも魅力的。

細い感じの斜面が多く、あまり眺望はよくないのである。
細い感じの斜面が多く、あまり眺望はよくないのである。

スキー場の形状は、標高1200m強の最高地点から、尾根をいくつか伝って麓まで続くよな細長い形。斜面を広く使うというよりは、林間コースが多いスキー場である。このようなスキー場ではガーラ湯沢のように混雑すると悲劇的なのだが、ここではそういう気遣いは一切なし。その点はありがたい。細長いスキー場であるが、八方尾根のように頂上から麓まで一気に降りるようなことはできない。全体として上部と下部の二つのゾーンに分けられ、上部ゾーンから下部ゾーンへと降りるときには、平坦な林間コースをスケーティングしてゆかねばならない。これが私をひどい目にあわせることになる。また林間主体なものだから、眺望は全体としてそれほどよいとは言えない。ダイナミックな眺望ならやはりニセコであろうか。しかし時に木々の間から糠平湖が見えることもあり、眺望は最悪というほどは悪くない。

はじめての北海道の雪。たしかに水気が少ないのだろう。雪が軽い。夜になって滑っても、昼に融けてまた固まった鏡のようなバーンと違って、それなりに滑れる。非常に快適であった。これはやみつきになる。そして、上手下手で分けると上手い人が非常に多い印象。ボーダーもみんなかなりうまい。下手なボーダーというのは、動きが読めなかったり、ゲレンデのど真ん中でめったやたらと座り込むために、邪魔で危ない存在なのだが、それを気にする必要がない。もっとも私がやたらと負い目を感じてしまうのも事実と言えば事実ではある。

なお、案内にあったゴンドラ一基というのは大嘘でそんなものはどこにも見当たらなかった。ゴンドラのあるなしはスキー場の規模を測るのに有用な基準であるが、よく調べる必要がある。

ひさしぶりのスキー

ともかくナイター営業中は幻想的でがらがらである。
ともかくナイター営業中は幻想的でがらがらである。

さて、初日の数時間は勘がとりもどせず、極度のへっぴり腰になったりして苦しんだ。往々にして初日というのは、ブランクのリハビリとなるわけだが、今回のものはひどかった。やはり二年は大きいのか。ようやく慣れてきて、ちょっとエッジをかけたり風が吹くとすぐに雪煙があがり、やはり雪が軽いのだということに気づいたのは夕方頃であった。ナイターは非常に人が少なく、幻想的。風で吹き上がった雪が、ライトに照らされてきらきらと光るのは、軽い雪ならではであろう。但しナイターの営業は土曜日のみという点も要注意。それから寒いので顔を覆うようなものも必要かもしれない。

私自身の問題はやはりきちんとした姿勢をとっていないこと。当然コブ斜面では死ぬ事になるし、ちゃんと練習しようともしなかったのはさらに問題。なんとなくそこそこ滑れるようになってからは、やはり習わないと上達は望めないのかもしれない。

練習と言えばやる気にならないのが、スケーティング。これはもうやたらと下手なので、平地での移動にびっくりするほど時間がかかるのが私の特徴である。ところが友人どもが、ノルディックの真似事が大好きらしく、ゲレンデ間の移動に必ず平地を通ることもあって、平地でのスケーティングレースが数度にわたって開催された。当然のごとく私は、いつもビリなのだが、めちゃくちゃ悔しいので、次に行くときは絶対にちゃんとできるようにするのである。しかし筋肉痛がすごい原因はこれのような気がする。

そんな調子でひたすら滑って、3日目の夜にとかち帯広空港(最近改称して「とかち」が付加されたらしい)から羽田に戻った。とにかくずっと好天に恵まれたのがうれしい。十勝方面のスキー場のメリットであった。羽田への進入ルートはお台場の沖を通るルートで、東京の街の明るさがよくわかった。帰ってきた実感は、やたらと暑かったこと、そしてボーディング・ブリッジをわたった瞬間に鼻がぐずぐずしたことによって感じられたのである。

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