酒井あゆみ『売る男・買う女』

本書は出張ホストを中心に、ウリセンを生業とする男たちへのインタビューを集めたものである。ウリセンというのは1990年代半ばまでは、新宿2丁目で男性たちに春を鬻ぐ少年たちを指したが、その後ホスト・ブームなども経て女性たちにも買われるようになる。現在彼らはもはや男にも女にも売る存在となった。本書はこのような傾向がなぜ生じたか、それを男性たちに聞くことで知ろうとするものである。

残念ながらそのような著者の意図は成功しているとは思えない。インタビューを通じて「売る男」がどのような意識で売っているかはわかるし、彼らが「買う女」にどのような視線を向けているか、あるいは女たちが彼らをどうして「買う」のかについてどのように思っているのかという、それぞれの解釈は知ることができる。たとえば、彼らウリセンの世界では、男に買われた後に風俗にいって「禊ぎ」を済ませることが多いというが、女が男を買うのはその逆のパターンが多いといった解釈である。それはそれで面白い。

しかし著者はなぜかそれを総合的に分析し一定の結論を出すことをしないのだ。結果としてインタビューの垂れ流しとなっており、資料的価値はあるかもしれないが研究としては物足りない。もちろん「売る女」であった著者独自の視点は非常に際だった陰影を彼らの証言に投げかける。しかし、それも段々と著者が共感できるか、そうでないか、という方向に向いてしまい、最終的には自分語り/自分探しに近い叙述となってしまう。この点が残念であり、以前に読んだ同じ著者による『売春論』への違和感は本書にも共通するものである。

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