玄田有史『働く過剰』

NTT出版の『日本の<現代>』シリーズ第12巻。玄田氏は『仕事の中の曖昧な不安』などですでに著名な労働経済学の研究者である。前半を若年層の労働問題全般に、後半を特にニートについて論ずる。本書では出所のしっかりしたデータを多数駆使して、客観的に問題を論じており、非常に説得的な仕上がりであるといえよう。しかしながら、この問題について、私にはそれなりの視点や知識を持っているわけではないので、備忘録的にメモ。

  • 即戦力重視とは企業の人材育成軽視の姿勢。あまりに短期的な業績に左右される人事・労働政策をとる企業であることを示しており、実際に業績と即戦力重視の度合いは反比例しやすい
  • 30歳代において過剰な長時間労働と無業の二極化が進みつつある。また統計的に「平均」のみを見ると読み誤る。また長時間労働の最大の弊害は能力開発の機会を奪うこと
  • 団塊の世代は就職時に高度成長、その後の石油ショックで転職もあり得ない時代に過ごすというタイミングのせいで結果的に長期雇用、年功賃金の恩恵を最も受けた唯一の世代
  • ニートといっても全てが就業を希望しない人々ではない。就業を希望しながら仕事を探していない「非求職型」について考える必要がある。また「家事手伝い」はその名目があるだけであって、実際上まさしく「ニート」と考えられる層であり、支援の手を伸ばす必要がある。
  • 就業を希望していない「非希望型」においても、2000年代の統計ではすでに低所得世帯の割合が上昇しており「あまやかし説」は一方的に妥当するものではない。
  • 経済的に高所得と低所得の家庭、そして親と子の関わりにおいて過剰な関与と放任という両面の二極においてニートが発生しやすい。
  • ニートになるのは「早寝、早起き」などリズムが出来ていないから。リズムに乗れば、意味など考えずに働ける。

あとがきで余談的に語られる大学論は興味深い。資格やスキルなどすぐに古くなる。大学で教えることではないし、そんなものは企業も求めない。わけのわからないことをわからないなりに取り組む姿勢、「「わからない」ということに対するタフネス」こそが求められるスキルであり、同時に大学で身につけることの出来るものなのだというのは全く同感であった。

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