あゆみにあったので,当然題名にひかれて買った本.が,実は慶應義塾と文人たちの関わりはほとんど何も書いていない.書いていないが近代日本詩学論的には非常に質のよい教科書といってよい良書かもしれない.扱う人々は久保田万太郎,折口信夫,佐藤春夫,堀口大學,西脇順三郎であり,彼らがたまたま三田と関わりがあった,という意味の書名.
日本文学における「象徴主義」という語の用い方や,西脇のモダニズムが定型詩からの脱却を通じて達成した詩的言語空間創造の本当の意味など,驚くほど深い意味が軽妙に語られる.詩そのもののの読み方は,おそらく著者と私は決して相容れることはなさそうに思えるが,評論としてすぐれているのは間違いない.