某所で最近旧国名が通じなくなりつつあるということを聞いた。いまでも地名などで一般的な名前(たとえばどの国にでもある一宮など)は旧国名を重ねて区別しているし、自動車によく乗る人なら峠の名前や街道の名前に多く使われているので、一般的に旧国名は広く認識が共有されているのだと思っていたが、そうでもないらしいのだ。旧国名は便利なもので主要な国なら一字で意味を示せる(たとえば「信」といえば「信濃国」であるし「上」といえば「上野国」である。漢風に「州」をつけて「信州」「上州」とも言える)。この一字略が特に通じないという。
私はこの議論は根拠もなかったのであやしいと思うが、実際のところはどうなのだろう。上信国境や上越国境、三遠信国境、西武、あるいは関東「甲信越」などの名前が残っているのだから、みんなわかっているのだろうと思うのだが……。もし上に挙げた固有名詞を単に地名としてバラバラに覚えているのなら著しい効率の悪さである。県名を学ぶ時に同時におおまかな旧国境と旧国名も学んだほうがいいのかもしれない。
別の話になるが、陸奥国、出羽国および蝦夷島がそれぞれ東山道諸国(陸奥、陸中、陸前、岩代、磐城、羽前、羽後)および北海道諸国(天塩、北見、千島、根室、釧路、十勝、日高、石狩、胆振、後志、渡島)に分かたれたのは明治二年のことであり、「釧」「勝」などのほかは定まった一字称はない。それが徐々に「狩勝」「塩狩」「常磐」などのように旧国名が廃止された後に広まってゆく過程はどのようになっているのか。興味のある問題である。
そして現在でも微妙にゆがみをもちつつ、旧国名を用いる傾向は変わっていない。たとえば「関越」などは「関東」と「越」であって妙といえば妙ないいまわしであるが、旧国名を用いたほうがしっくりとくるのである。高速道路の名称をみると、あえて避けたかのように都道府県名は使われず、地方名(東北自動車道)や旧国名(常磐自動車道や上信越自動車道)あるいは都市名(東名高速道路や館山自動車道)である。これはやはり一世紀たったいまでもフランス流の県編成はしっくりとこないということなのだろうか。
現在進みつつある「平成の大合併」によって一つの市町村の面積は相当に大きくなり、郡相当となる。であるならば、都道府県+市町村という枠組みよりも道+郡という令制下の編成の方が結局合理的であったと言えるかもしれない。