新聞や通信社配信報道文というものには、独特の文体や作法といったものがある。このことに関する本はたぶんたくさん出ているとは思う。まだ訳し始めてせいぜい半月であるが、その間に私でも気づいたものはいくつかある。今回はその気づいたことのメモ。
日付の表現
概ね新聞での時間の表現は日単位で、時刻については特記する必要がない限り、せいぜいが何日未明、早朝、朝、午前、昼、午後、夕、夜、深夜までしか表記しない。日本語の新聞では次のように日付を用いるのが普通である。
小泉純一郎首相は九日、「……」と述べた。
なお普通は「……は……日、……と言った」だけで文を構成することはない。「……は……日、……で……について……と言った(表明した)など場所と発言の対象についても記述する。
これが英文では次のようになる。
Prime Minister Jun-ichiro Koizumi said Tuesday that …
違いは一目瞭然であろう。英文では曜日を基準とするのである。当然のごとくprevious Sundayなどの言い方もすることになる。曜日を強く意識していないといつのことかわからなくなる。なお、訳では新聞らしさを出すなら日付に変換し、欧米の新聞らしさを出すなら曜日のままで良いだろう。この日付が入る場所は概ね決まっていて日本文では新聞体に特徴的な「主語+日付+、+主文」となり、英文では副詞であるから動詞の後ろが普通。
人名
人名についても使い方が異なる。日本文では上記のように初出で「小泉純一郎首相」のように姓+名+肩書を用い、以降は姓+肩書を用いるのが原則である(日本の大臣、特に首相、外相、法相の二字に略せるものは肩書のみの場合もある)。「小泉は……」というように呼び捨てはありえない。犯罪者であっても「被告」などの肩書はつくし、何もない場合は仕方がないので「……さん」を用いる。また一般に代名詞は使用しない。「彼は」のような使い方はしないのである。
英語では、呼び捨てと代名詞の使用が普通である。初出で肩書き付きとなるのは同様であるが、その後は肩書きは用いない。もし肩書き付きで出す場合も、ひたすら「Prime Minister Koizumi」などを延々使い続けることは好まれない。タイトルがいくつかあれば、それを使いまわす。また代名詞を使用するのも普通である。たとえば、三月十八日付のInternational Herald TribuneのViolence undercuts U.S. envoy in Mideastという記事では、十二回ジニ米国特使について触れているが、次のように使いまわしている。
- General Anthony Zinni
- the American envoy
- Zinni * 6
- the U.S. envoy
- he
- the envoy
- the retired Marine general
このようにきわめてヴァリエーションに富んでいる。さらに代名詞を使った場合は要注意で「彼は彼らについて……と言った」と日本語であれば、「彼ら」は「彼」の属する集団と漠然と想像するのに対して、英語では全く違う場合が普通。
外電注記
英文の記事では主見出し+記者+(配信元)+日付+(袖見出し)という形になる。記者と配信元は見出し領域に入ることが注目される。そして発信地は最初の文の冒頭に挿入しボールドゴチックで表現される。先にあげたViolence undercuts U.S. envoy in Mideastをごらんいただきたい。
これに対し、日本文では見出し以外の要素は本文冒頭に【発信地日付=記者(または通信社)】と囲んで挿入する(外電記事では日本の新聞でも記名記事となる)。上記リンクの例では次のようになる。また通信社配信記事では記者の名は省かれる。その例も挙げる。
- 【イェルサレム十八日=セルジュ・シェンマーマン】アンソニー・ジニ将軍のシャトル外交四日目は……
- 【ラーマッラー(ヨルダン川西岸)二十日=AP(共同)】イスラエル軍は二十日、ヨルダン川西岸の都市ラーマッラーに侵攻し……
その他
これは英文共通であるが、間接話法と直接話法が入り乱れて登場するので、その中の代名詞については要注意である。稀ではあるが間接話法で導いておいて、一部””を入れて直接話法となっている場合もある。