山内昌之『イスラームと世界史』

著者による1997年から1999年までさまざまな雑誌に掲載された歴史とイスラームを絡めたエッセイを編集した物。ジャーナリスティックなものも歴史哲学的なものもあり、読み物としてはおもしろい。特に「丸山眞男の読んだ『神皇正統記』」が特筆。親房が政治哲学をもち、正しい治国を行うためのノブレス・オブリージュの観念をもっていたことを丸山がきちんと見抜き、単に復古の徒とは見ていないことを教えてくれる。現在の朝日的知識人との違いの所以である。

そしてまた本書を貫く一つの意識は、ユートピアを求め、それを実現しようとし、平等と人間中心の世界を作ろうとすることが、大きな犯罪につながってしまったことへの回顧である。引用されるギリシア格言「悲劇が明白な悪の勝利にあるのではなく、善の悪用にある」は、非常に重要な示唆と深い納得を与えてくれる。

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