酒井啓子『イラクとアメリカ』

イラクとアメリカ (岩波新書)

著者/訳者: 酒井 啓子

出版社: 岩波書店(2002-08-20)

Amazon価格: 1

新書(224ページ)

ISBN: 4004307961

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推薦版。現代イラク史をまとめた一冊。酒井啓子氏は、世界でも数少ない「イラク」という国家の専門家の一人である。ジョージ・W・ブッシュの合衆国は「対テロ戦争」の目標を、アフガニスタンの次はイラクに定めた。このことによって、我々はアメリカ対イラクの図式の本質を、アメリカ対イスラームという印象を抱いてしまいがちだが、これは完全に誤った見方である。サッダーム・フサインのバアス党政権は湾岸戦争前はイスラーム復興運動を弾圧してきた経緯があるのだ。著者は、むしろこのような二元論的なイメージを形成し、アメリカという「敵」の対局に自らを擬すことで権力を保持しているとするところに本質を見る。以前にもフセインは世界を相手に「フセインかソ連か」、「フセインかイランか」という問いかけを発し、アメリカはフセインをとってきた。そしていま、「アメリカかフセインか」という問いかけをアラブ世界に発しているのだと指摘する。

フセインを支持しない限り、それはアメリカの味方をすることになるというこの理屈は、見かけよりも強力である。現実的に妥当するかどうかはともかくとして、人びとの目にはアメリカはイスラエルに見えるし、そのイスラエルはパレスチナで果てることのない戦争の再生産を続けているのである。これはアメリカのジレンマそのものであり、合衆国の同盟国日本の国民として我々が知っておいて良いことの一つである。

なお私見をまじえれば、勢力均衡の点から考えて、アメリカのイラン敵視が状況をとんでもなく複雑なものとしているのは明かである。湾岸戦争しかり、アフガニスタンしかり、イラクしかり、そしていまパキスタンしかり。アメリカがイランを失ったつけはあまりにも大きかった。すくなくともイランが「存在しない」かのように扱っていることが、状況を悪くしている。最低限、イランという国家のプレゼンスは認めるべきであろう。

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