森川久美『南京路に花吹雪』(全3巻)

全三巻.上海の租界は昔から気にかかる場所ではありました。憧れのヨーロッパの香りも、目を背けるべきような西洋の昏さもいろいろ混じり合った不思議な空間を再確認しました。どちらにも惹かれるものを自分の中に見つけました。ただ『イスタンブル物語』でも思ったんですが、森川久美って実はナショナリストなんじゃないかなぁと思いました。ナショナリズムのことを考えるにもよい本でした。絵柄は好きですが、コマ割がすこしなじめません。おかげで状況描写が少し頭に入りにくことがありました。

萩尾望都『A-A’』

表題作のほか「4/4カトルカース」「X+Y」を所収。一連の一角獣種シリーズである。萩尾を読むのも久しぶりなら、新しめの作品も久しぶりであった。その日のうちに読了。僕は問題短編的なものは苦手なのだが、「X+Y」のハッピーエンドで救われた。途中のカラーページもきれいだったし、ストーリー展開などは、萩尾のことであるから、下手な文句も言えない。このころの絵が一番洗練されているように感じた。萩尾の全著作評論集など作ってみたいものである。うぶなモリが好き。

新田俊三『アルザスから-ヨーロッパの文化を考える』

推薦版.アルザスの持つ多様性とそれを許容するアルザス文化。僕の考える人の生き方が紹介されていた。そしてまた、紀行も食、風景、地理としっかりしている。ドイツへの近さ、パリからの不便さなどは逆に魅力なのではないだろうか。研究者の書く紀行とはかくあるべきであろう。当然専門の経済学についても述べられているのだ。

朧谷寿『藤原氏千年』

前後に薄く、中に濃いといった感じである。著者自身の言葉通り、人物を感覚的に捉え活写している。「小右記」の小松宮右大臣などがとても面白い。それから近衛家の祖が後白河院の「愛物」であったことも今更知った。頼長のみを色々詮索していたのだが、院政期という時期特有のものがあるはずである。あきらかに中世男色史を寺院内のみで見ることの誤りを指し示すものであろう。ともかく。道長の著述はさすがに多いが、前後にもうまく手を伸ばしており、適切な入門書といったところであろうか。最近、日本史関係の専門書をあまり読まぬ身には反省ともなり、刺激ともなった。

藤本ひとみ『聖戦ヴァンデ』

フランス革命という、自由・博愛・平等といったパリでの流れだけを見ることを告発する。専門書では『ヴァンデ戦争』があるが、こちらはかなり読みやすい歴史物語である。なぜパリの市井の少年が、革命の情熱に燃えてしまった瞬間に地方粛清ということを思いつくのか。革命という劇薬が、少数の犠牲を闇に葬り去った陰の部分をえぐる好著である。