中東戦争とイスラエル

日本の現代イスラエル研究第一人者により、第三次中東戦争直後に執筆された2部作の論文。シオニズムとイスラエル・ナショナリズムの本質まで切りこむ深い考察が加えられている。

論文第1部の前半は、第三次中東戦争開始直前のイスラエル国内の雰囲気や、開戦までの経緯、戦後のイスラエル社会の興奮が記される。後半では、この戦争をイスラエル対アラブというナショナリズムの対立構図で捉える観方が批判され、その背後にある「一定の政治的立場とそれが必要とする巨大な論理の虚構」(p.99)が分析される。

第2部前半では、イスラエル・アラブ戦争が解決に至らない背景としてイスラエルの対外政策の特色が考察され、後半では、アラブ勢力のインターナショナリティーとイスラエル社会の歴史的総過程を総合的に把握する研究が中東和平への契機を探るために必要だと論じられている。

著者は、本論文を通じて、なぜイスラエルが西アジアで平和に共存できないのかという問いに対する一つの答えを提示しており、現在でも重要な視座を与えている。(今野泰三)