Is America "Different?" A Critique of American Jewish Exceptionalism

20世紀後半からBen Halpernをはじめとした歴史家の間で共有される傾向にあるアメリカ・ユダヤ史例外論を、最新のヨーロッパ・ユダヤ史の成果に基づきながら退ける意欲的論文。この例外論とは、ユダヤ史のなかでアメリカでは例外的にユダヤ人が差別や反ユダヤ主義に曝される機会が少なかったとする捉え方である。筆者によると、この種の議論は、解放の遅れや反ユダヤ主義の蔓延がヨーロッパ・ユダヤ史の常態であったことを、特にホロコーストに至るドイツ・ユダヤ史を念頭に置きながら前提としてしまっており、その反例を見ない傾向にあるという。しかし近年の研究が明かすところによると、ヨーロッパでも時期や地域によって、20世紀後半のアメリカに類する状況は多くあるし、アメリカでも実のところ差別事件は多くあった。また今日のアメリカ・ユダヤ人の状況は、冷戦や公民権運動などに規定された20世紀後半の状況によるところが大きいのであり、やはり時期による違いにすぎない――。本論文にはパレスチナ問題に関する言及はないが、近現代ユダヤ史を比較するための様々な視点や必須文献を紹介しながら議論をしているため、アメリカ・ユダヤ史に関心がなくても勉強になるだろう。(鶴見太郎)